〼(ます)健の備忘録

置き去りにしてしまいそうな好奇心を残せたら良いな。

國學院ファン目線で綴る箱根駅伝2022 往路編

 ご無沙汰しております。公私ともにいろいろありまして更新は1年ぶりになってしまいましたが、今年もファン目線で、なるべくポジティブに振り返っていこうと思います。

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0.前哨戦までの國學院

 前哨戦までの國學院を振り返ると、「六強のチーム」というネーミングができるだろう。前年度からWエースとして立脚していた藤木、中西大翔各選手に加えて、

・学生ハーフ3位、前哨戦1区での好走、山の飛び道具からエースに成長した島崎選手

・キャプテン2年目、出雲2区で区間賞を獲得し自分にもチームにも自信を深めた木付選手

・ロードの強さは折り紙付き、全日本8区で早くもタイトルホルダーとなった伊地知選手

・1年生ながら駅伝は長距離区間を任され、もはや2区出走も噂された怪物ルーキー平林選手

の4本の柱が成長、主要区間で戦える選手の数なら全大学でもトップクラスだった。加えて、山登りの5区を競技人生最終走に据え、じっくりと心身を準備してきた殿地選手が山登りの前哨戦「激坂王」を学生トップタイムで踏破。また、ルーキー世代最速の5000mタイムをもつ山本選手が10000mでも結果を残した。総合優勝が狙える大学のひとつ、と捉えられていたし、ファン心理としてもそう思っていた。

 ただ一方で、「Wエース」藤木、中西大翔選手が前哨戦で調子の悪さを見せてしまい、この2人については往路で真っ向勝負をさせるより、復路のジョーカー的な起用のほうがよい、というのが駅伝ファンの見方であり、失礼ながら自分もそう思っていた。

 

 しかし、こうした下馬評は、良くも悪くも大きく裏切られることになるのであった。

 

1.往路観戦記 〜力を蓄えた者たちの快走劇〜

往路:藤木-伊地知-山本-中西大翔-殿地

 このメンバーを見た時にはじめに感じたのは「なんだかんだWエースのチームで、この2人に命運を託してきたな」というものだった。ハイペースが予想される中出足を任された藤木選手、2区3区と下級生が続く中ゲームチェンジをも期待された中西大翔選手という、ポイントにWエースが入る形だったからである。伊地知選手も前哨戦好調とはいえ2区は初、加えて前哨戦は出場のなかった山本、殿地選手も主要区間に入り、往路は楽しみ半分、不安半分くらいの感覚だった。

 

 しかしこの5人が躍動を見せる。

 

 まずは1区。藤木選手は中谷(早稲田)、鬼塚(現NTT西)、米満(現コニカ)選手らにより生まれた超ハイペース、「地獄の1区」を知る数少ない選手だった。(もう1人は今回区間最下位に沈んだ栗原選手)それだけに安心して見ていられ、その時の再現を見ているように終始余裕のある位置どりでレースを進めていた。吉居選手こそ逃したが、あればかりは仕方ない。そして六郷橋でひとり、またひとり脱落するなかで最後まで好位で粘り抜き、2位とはそれほど差のない6位で中継。同門・駒澤大で、こちらも藤木選手同様「不調上がりの大エース」と目されていた唐澤選手に負けたことが唯一の注文だろうか、渡す位置・タイム差ともに完璧だと思った。

 

 2区は監督が「ダントツ」というくらいには状態が良かったと目される伊地知選手。並走する東海大の松崎選手の力を使えれば、と考えていたが、そこであまりリズムに乗り切れず、後ろから留学生や鎌田選手(法大)ら他大学のエースに迫られる難しい展開になってしまった。ただ、最後まで粘り抜いての67分台。区間順位は中位にとどまったがそれは相対的なもの、それ以上に67分台のタイムはエースの勲章だと感じる。そして更なる伸び代を期待させる部分もある。まずは部内競争、特に2区を希望していた「怪物」平林選手の挑戦をはねのけ、また鶴見中継所に戻ってきてほしいところだ。

 

 そんな2区、伊地知選手が襷を繋いだのは、平林選手の同期にして「もうひとりの怪物」だったということを、襷リレーのときにはまだファンは知る由もなかったのである。

 

 3区・山本選手。

 

 國學院史上初の高校PB13分台ランナーであり、國學院ファン以外の駅伝ファンからも将来を嘱望された選手である。しかし、1年次前半のシーズンでは怪我に苦しんでおり、一ファンとしては「あれだけの大器なら2ヶ年計画でもかまわない、まずは身体作りから頑張ってくれれば」と、思っていた。しかし秋にトラックを走るようになると、あれよあれよと28分台ランナーになり、地力の高さを見せつけた。とはいえ、長いロードは未経験。どうなるかと思われていた。

 

 そんな心配をよそに、彼は藤沢の定点で5人抜き、区間暫定5位を叩き出した。藤沢定点の映像がにわかに信じ難かった。その後も定点以外の中継に映ることはなかったものの、足取りは衰えず最終的には区間5位、4位で中継。これが國學院の未来だと確信した瞬間だった。

 

 その山本選手から襷を受けたダブルエースの一角、中西選手。全日本では失速を喫したが、うるさい展開より単独で追っていく展開の方が概して成績がよかったこと、それに区間エントリー発表時点で4区にいたことから何も不安視はしていなかった。その期待通り、軽い足取りで3位の帝京大をとらえ、懸命に2位・東国大を追っていた姿にエースの復活を見た。最終的には東国・堀畑選手に粘り切られたものの、堂々の61分台、区間4位。来年はエースでキャプテンということであり、その面目躍如といったところだろうか。

 

 とすると、激坂王のタイトルを得て、2度も「救國の英雄」的な活躍を見せている5区・殿地選手の双肩に全てがかかることになった。普段は柔和な表情を見せる選手であるが、山を走る表情にはまさに「鬼気迫る」という表現がぴったりだった。しかし、ペースが想定以上に上がらず、後方から帝京・細谷選手と駒澤・金子選手に抜かれて、最後はなんとか4位を維持してのゴールとなった。事後取材によれば低血糖に陥っていたようで、そんな中でも区間一桁を死守する走りとなり、「懸けてきた」ものの大きさを感じることとなった。

 

 往路を終えて、まさしく前哨戦で出番がなかったり、調子を落とした選手がきちんと牙を研いでいたことがはっきりと分かり、胸が熱くなる結果となった。かつ復路に前哨戦好調の島崎・木付・平林選手、さらにタフなロードに適性のある坂本選手を残し、総合優勝に望みをつないだ、と感じていた。前田監督が自信なさげな受け答えをしていたことに一抹の不安はあったとはいえ...

 

(後編に続く)